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大学英米文学科同窓会

会報「Aoyama Sapience」第35号

2016.07.19 更新
会報「Aoyama Sapience」第35号を発行しました。会員の皆さまには7月15日に送付しました。





――― 下は第35号3ページより ―――

私の好きなヒーロー(9)

    - アイアンマン -   ハウエルズ智史

 イギリスの田舎にどこからともなく突如現れたアイアンマンは、同時代にアメリカに生まれたスーパーヒーローと名前は同じでも、まったく違う性質を持っている。『アイアンマン』は詩人テッド・ヒューズ(1930‐1998)が母親を亡くした彼の子供たちに語った物語で、主人公アイアンマンは出自が全くの謎。ただ金属を食べるために生きており、農具や車を食べてしまうため、地球の人々に嫌われている。最初の章における、暗い海辺で崖から落ち、バラバラになり、そしてまた一つに戻っていく姿は、本当に子供向けの本なのかと疑うくらいに、気味が悪い。

 それでもこの本は、2014年にはブリティッシュライブラリーのクラシックチルドレンズブックエキシビションで、『ホビット』や『ピーターパン』とならんでイギリスの児童書 10作品の1つとして展示されるくらい不動の人気を誇っている。

 最終的に地球外生物から人々を救うという点で、アイアンマンがヒーローであるのは間違いない。アイアンマンが宇宙から突如やってきたコウモリのような黒い天使のようなドラゴンのような生物(the space-bat-angel-dragon)と対決し、不屈の精神で地球を守る姿は人々に勇気を与えるのみでなく、人間のひ弱さ、戦争に勝つために日々武力を高めようとすることがどれだけ無駄かということを教えてくれる。そのおかげで人々は、お互い協力しみなが幸福に暮らせる世界を目指しはじめる。とはいえ、アイアンマンが地球を守ることを決意する理由が、金属を作る人間がいなくなったら、自分の食料がなくなってしまうからということを考えると、やはり子供に読み聞かせる本のヒーローとしては疑問が残る。

 実は、この地球規模の救済の影で、アイアンマンの存在はホガースという一人の少年の成長を助けている。物語の冒頭、ホガースは嫌われ者であるアイアンマンを撃退するのに奔走し、一度は捕らえることに成功する。しかし、次第に彼は一度は埋め立てられてしまったアイアンマンを気の毒に思い、復活したときには金属廃棄所(a great scrap-metal yard)に連れて行く。そこでの生活を気に入り、住み着いたアイアンマンに、地球の危機を救ってくれと頼みにいくのも他でもないホガースなのである。

 最初はアイアンマンの存在に怯え、排除することしか考えていなかったホガースが、徐々にアイアンマンを理解しようとする姿からは、彼の大きな成長がみえる。テッド・ヒューズ本人が言っているように、この本は嫌な事、自分の思い通りにならない事が起きたときに、ただそれを避けるのではなく、対処するということを同時に教えてくれるのだ。このようにアイアンマンはただ地球をの救うヒーローというだけでなく、子どもの成長を促すという点で、やはりみんなのヒーローであるといえるだろう。

(2006年博士前期課程修了 イギリス在住 会社員)




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