日時 2022年5月14日(土)14:00 オンライン開催
今年から総会は毎年開催になり、総会・記念講演・交流会の一体化を実施しました。総会は吉波副会長のオンライン操作の説明、佐野会長の挨拶に続き、2021年度事業・活動報告及び決算報告が承認され、2022年度事業・活動計画案及び予算案が賛成多数で議決されました。(出席者数は委任状を合わせて207人)。
前英米文学科主任松井教授の講演は、情熱を持って誠実にスコットと英文学を探求なさった充実感が伝わり、五月の爽やかな風の中、明るい光に出会った思いがしました。
オンラインは、場所・年齢を超えて参加可能なので、画面越しでも伝わる大先輩たちの自由でしかも利他的なお姿に学ぶところ多く楽しい交流会で、来年の再会を願いました。
英米文学科同窓会第13回総会記念講演
講 師:松井 優子 氏(青山学院大学文学部英米文学科教授)
日 時:2022年5月14日(土)15:00~16:10
演 題:ウォルター・スコットともう一つの「英文学」
――ヴィクトリア時代からモダニズム期の変容をめぐって
昨年から今年にかけSir Walter Scott の生誕250周年事業が行われている中、時宜を得た貴重な講演となり、Scott研究の専門的な知見の披瀝は聴衆を引きつけ続けた70分だった。馴染みの薄かった受講者にも英文学上重要な位置を占めるScottの存在が印象づけられた。
主な作品
小説家、歴史家、詩人として活動、出版は多岐にわたり、Minstrelsy of the Scottish Borderの編纂・出版後、自身の詩集The Lady of the Lake(湖上の美人)は従来の英国での詩集売り上げの記録を破る人気だった。George 4世からPoet Laureate(桂冠詩人)を打診されたがこれを辞退、小説に力点を移して行く。匿名出版の歴史小説 Waverleyが好評を博し、その後も「The Author of Waverley」の名で一大歴史小説群をものした。Ivanhoeもこの中に含まれる。
作品全集の増殖と多様化
Scott没後も、廉価版から豪華版まで多種の形態による全集が出版された。たとえば、Sixpenny editionの題扉横や巻末には、ある種現代の商業主義を先取りしつつ、文学関連以外の広告も掲載されている。19世紀末までには年齢、性別、階級、国を問わず広く翻訳、翻案でも享受され、詩、劇が中心だった中で小説というジャンルの地位を上げ、その認知と文化的権威を高めることに貢献し、小説が大学や教会の図書館に所蔵されるようにもなった。
19世紀におけるScott作品の受容と遍在
Kensington宮殿のVictoria女王が使ったとされる一室にThe Bride of Lammermoorの一場面の絵画が掲げられ、「女王が読むことを許された最初の小説」の添え書きがあり、これもScott作品の位置づけを物語る(同じ場面は、Donizettiの歌劇 Lucia di Lammermoor でも有名)。絵画だけでなく、当時の新技術である写真機の題材や贈呈本にもScottの小説の場面や詩そのものの一節が引用されることも多かった。Oxford English Dictionaryの出典数ランキングを見ると1位はTimes紙、2位 William Shakespeare、そしてWalter Scottは第3位で、同じ作家仲間としては7位にGeoffrey Chaucer、John Miltonは9位であり、Scottがその存在感を誇っている。
Scottと19世紀英文学教育
彼の作品は小学校読本にIvanhoeやScott伝記が載り、奨学金の課題図書、教育雑誌の参考図書のほか19世紀英文学入門の代表的文献として活用され、Shakespeare以来、Scottに匹敵するものはないとして、小説の文学的地位を高めたとされている。文学研究においてScottの小説はHistoric Sense(歴史感覚)を求め、遠い時代を描くだけでなく自分自身の時代を描くのに必要な要素と指摘され、さらにはScottが我々に時代感覚というものを教えたとも評されたが、時が進むにつれて読み手の文学批評から書き手が新たな文学観を提示する時代への転換もみられ、Scottの位置づけも変わっていく。文学を科学的に研究しようという模索も始まり、E. M. Forster の Aspects of the Novelでは、storyとplotとを区別し、Scottはstorytellerにすぎないとするなど、従来とは異なる評価を与えた。背景には読者層の多様化、階層化等があり批評の変遷も必然的なものだったが、20世紀末になってNew Historicism、Cultural Studiesという新しい批評の視点からScott作品が再び注目されるようになった。
講師が、Scott作WaverleyのSixpenny editionが本学大学図書館の書庫にひっそりと眠っていたのを発見したとき心踊る思いをしたというエピソードが紹介され、Scott研究の動機付けを大きく後押ししたものと容易に想像できた。聴講者たちが卒業後数十年を経てなお学生時代を思い出しつつ、知的探究心、向学心をかき立てられた講演だった。
最後に、Sir Walter Scottの生誕250周年記念行事について紹介していただいた。