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第42回講演会(オンライン講座)活動報告
2021.12.01 更新
講 師:外岡 尚美 氏(青山学院大学文学部英米文学科教授)
開催日時:2021年10月29日(金) 14:00~16:00
テ ー マ:「演劇から見るアメリカと世界
~ ポスト・トゥルース ― 情動の政治と演劇 ~」
理性的判断より感情が、人間を動かしてしまうトランプ政権下での「情動の政治」、客観的事実より虚偽であっても、個人の感情に訴えるものの方が強い影響を与える”Post Truth”という時代。自由競争という名の下に、貧富の差を拡大したネオリベラリズムと、基幹産業の海外移転をもたらしたグローバリゼーションは、労働者を置き去りにしていった。
このような現代アメリカを演劇はどのように描いているのか? 今回は3つの劇を例に挙げて講演していただいた。
Sweat
(Nottage, Lynn. 2017)
ラストベルト(錆びついた工業地帯)の同じ鉄鋼工場で働く仲間達、失業したあげく薬漬けになっていく人を間近で見ながらも、「努力すれば豊かになれる」というアメリカン・ドリームにしがみついている。しかしそのような夢が実現する時代は終わってしまい、楽観的な考えが残酷な結果を招いてしまった。
Father Comes Home from the Wars
(Parks,Suzan-Lori. 2016)
南北戦争下、奴隷制度が廃止されつつある時代、「主人と南軍に従軍すれば自由が与えられる」と言われた奴隷ヒーローは、「自由を与えられることはない」と知りながら主人と共に従軍する。主人は最後まで自由を与えなかったが、ここにも残酷なオプティミズムがある。そして主人が亡くなるころ、ヒーローは主人に似ている自分を発見する。
Describe the Night
(Joseph,Rajiv. 2017)
場所はロシアとその近郊国、物語は1920 年から2010年の間を行き来する。秘密警察による作家の粛清、ロシア大統領による記者の暗殺等、劇は歴史上の人物、架空の人物そしてその立場さえはっきりしない人物の中で描かれる。何が正しいのか?「作り話」が事実とフィクションの2項目対立を壊すものになりうるのではないか?そして「何も根拠のない真実はいらない。推測をもとに真実を作るのはやめよう。」という現実的な言葉で劇は終わる。
オンライン上で実際の演劇を垣間見る楽しさを交えた今回の講演は、興味の尽きないものとなった。最後の質疑応答で、先生が「コロナ禍でも普段見ることができない演劇を楽しむことができた」とにこやかに話してくださったのが印象的だった。