【総括】
今回の岐阜を知る会は、岐阜県にも多くの文化的遺産を残された辻宏氏の功績を知るシリーズの第2回目として開催しました。辻宏氏は青山学院男子高等部最後の卒業生のお一人で、青山会館に設置(1994年)されたパイプオルガンは同氏が製作したものです。
2021年3月に青山会館(アイビーホール)の閉館に伴いパイプオルガンの行き場がなくなってしまうという事態になりました。そのパイプオルガンを解体し、保管されているのは辻オルガン製作所(岐阜県白川町)の工房を引き継がれた、藤吉オルガンの藤吉正吾氏です。
藤吉氏は辻宏氏のお弟子さんであり、今回「岐阜を知る会」での見学やお話をお聞きしたいと申し入れた際、快諾をいただき今回の知る会の開催となりました。
白川町には辻氏の製作された4台のパイプオルガンがあります。パイプオルガンのソフト面でも、国際的にオルガンを介して文化交流を続けられている白川町教育委員会様に、施設見学や辻氏にまつわる資料・写真・パイプオルガンなどの見学ならびにお話をお聞きする機会を頂戴しました。
いずれも中身の濃い見学となりました。その中身の濃さは本報では十分お伝えすることが出来ないのは残念です。
両者とも。パイプオルガン・辻氏について広く知ってもらうこと、興味を持っていただいたことに非常に感謝されておられます。
辻氏は、パイプオルガンという装置ではなく、歴史・文化・精神性・芸術性・音楽の根源的な要素など様々なシーンでレガシーを残されました。
そしてそのことは、持続性・継承性という二つの側面も兼ね備えられています。ピストイア市(イタリア)との国際交流の継続、オルガン製造の技能伝承(この中には辻氏のパイプオルガンに対するこだわりなど)をお弟子さんの藤吉氏等にも引き継がれています。
藤吉氏の工房見学の際の、ご説明の中でも辻氏から学ばれ伝承されたことが今も受け継がれておられるのだと幾度も感じました。
【第4回岐阜を知る会の見学概要】
1.藤吉オルガン株式会社 藤吉正吾氏ならびに奥様
工房の見学、パイプオルガンの製造工程、青学会館の解体後のパイプオルガン(写真)の見学や辻氏との関わり合いなどをご説明いただきました。
写真 右から 押谷校友、藤吉様、山北校友、大澤校友
工房は小学校廃校をそのまま利用しているため、例えばパイプを製造する場所は、旧給食室で釜戸をそのまま利用し鉛と錫を溶かすために用いられています。
青学会館で解体した相当数のパーツ(鍵盤、パイプ等)は、2階の教室(写真)に収納されていますが2クラス分ぐらいの量です。
パイプオルガの部品はほぼすべてが手作りで、気の遠くなるような作業の積み重ねです。
2.白川町町民会館(白川町教育委員会事務局併設・所管)
同町教育委員会 安江生涯学習係長に対応していただきました。また、同町の田口様にも見学の調整をしていただきました。
グロリアホールのパイプオルガン(写真)は、辻氏が製作された81台目の作品で、最後のものです。
白川町とピストイア市(イタリア)との交流と、30年以上続く「白川イタリアオルガン音楽アカデミー」を踏まえ、イタリアルネサンス?ロココ時代の様式を基本としながら、現代の楽器としてより広い用途に対応できるように構想されたパイプオルガンとなっています。
白川町町民会館にはもう一つ、ピストイアホール(別掲写真)があります。1987年に設置されています。
先ほどから出ているピストイアとは、イタリアのピストイア市のことで同市のオルガン修復に携わったことから、同町はピストイア市と姉妹都市を結び交流を続けています。
このことは、辻氏がスペインのサラマンカ新大聖堂にある16世紀に造られた国宝級のオルガン「天使の歌声」の修復をされたことから、岐阜県がスペインと友好都市を結んでいることも想起されます。
辻氏が工房を構えた白川町には、辻氏製作の4台のパイプオルガンがあり、パイプオルガンの町を彩ります。オルガン工房に構えた同町黒川地区の集落は、ほとんどの人が建築関係のお仕事をされ、パイプオルガンの材料となる”木”ばかりではなくパイプオルガンの製造に適した産業連関ができる”場”でもあったようです。
パイプオルガンが町を彩る景色に加え、深まりゆく秋から冬支度に向かう木々の彩は同町の魅力でもあると強く感じた岐阜を知る会となりました。
ご協力いただきました関係者の皆様に改めて御礼申し上げます。
参加者は押谷浩一(78経済)、大澤智恵子(86短)、山北一司(86経営)の3名でした。
(幹事:山北記)